椛狩~赤の運命

扇子(かぜ)に記した 写経の跡を
なぞる指先 ささくれ化膿んだ 瘭疽(むらさき)【瘭疽】:ひょうそ 細菌感染症の一種。爪囲炎、化膿性爪囲炎ともいう。黄色ブドウ球菌の感染により、爪の周りが赤く腫れて痛みを伴う。
降魔(ごうま)の利剣不動明王が手に持つ、悪魔を降伏(ごうぶく)するという鋭い剣。京都府京都市左京区、瓜生山にある狸谷山不動院の境内には、宮本武蔵が打たれて修行し、心の剣をみがき、己に克つ”不動心”を会得したという武蔵滝がある。案内板には「修行熱祷の末、武蔵はついに不動尊の右手に持する降魔の利剣の極意を感得した。敵への憎悪ではなく、己の恐怖・煩悩に打ち勝ったことを悟る。自信を得た武蔵は悠然と山を下り吉岡一門を一撃のもとに倒す。」と記されている。 手にはしたもの
迷う矛先 遠い目をして ふたり

 狸谷の童子めぐり狸谷山三十六童子巡りのこと。狸谷山不動院本殿から奥の院までは、不動明王の使者三十六童子(どうじ)の巡拝路になっている。 十四章目に 彼女あさま山荘事件などで有名な日本の新左翼テロ組織【連合赤軍】の服務規律「第十四章 彼女」から。”彼女”とは、武器等を指す隠語と言われている。
 「もう臨終(おしまい)かもね」と微笑み 深く溜息を つく

静寂を殺めた その空砲は
神の身罷(みまか)り【身罷り】この世から罷(まか)り去る意。死ぬ。死去する。か 虚しい勝鬨(かちどき)【勝鬨】戦(いくさ、戦争)などの勝負事で勝ちを収めたときに挙げる鬨(とき)の声(士気を高める目的で多数の人が一緒に叫ぶ声)。
ふたりの歴史の 譬(たと)えか

 赤に染まる山に蠢くは あまりに 鮮やかな 椛(もみじ)
 疎まし気に 彼女は続けた

「あれは怨霊の掌? それとも
 水に潜(くぐ)らせた あたしの嬰児(こども)たち【水潜り】:紅葉の品種。水子の隠喩。かも。」

銀杏並木の学舎 学生運動が1970年代に入り全国的に退潮期となってもなお、京都大学では学生寮(自治寮)や一部の学部自治会、 西部講堂などを拠点として運動が一定の勢力を保ち続け、「日本のガラパゴス」と呼ばれる状況を呈していた。の裏
たどる記憶に 誘われ弔う 同胞
あの時 埋めた 摩多羅(まだら)の仮面 陰暦9月12日(現在は10月12日)の夜に京都市右京区太秦(うずまさ)の広隆寺で行われる【牛祭】に用いられる仮面。 摩多羅神(またらじん)の役が白紙の仮面をかぶり、異様な服装をし、牛に乗って寺内を一巡し、 国家安穏・五穀豊穣(ごこくほうじょう)・悪病退散の祭文を読む。
咽(むせ)る 想い出 挿げ替え供えた 山茶花(さざんか)

 左利き隠し続け怯える僕に 右利きの彼女は
 「大内裏(だいだいり) 平安京における宮城。天皇の住居・内裏(だいり)と国政・行事執行のための施設を含む。平安京は 中国の長安(現在の西安市)をモデルにしているため、大内裏も南向きに建造された。京都の右京区・左京区が地図上では左右逆になっているのはこのため。みたいね」と皮肉り 脅すように 高く 笑う

亡国に谺(こだま)する その宣誓(ちかい)は
幽世(かくりよ) 隠世(かくりよ)、常世(とこよ)とも云う。永久に変わらない世界、神域、死後の世界という解釈もされるが、古くは「常夜」とも表記した。日本神話・古神道・神道における二律する世界観の一方であり、もう一方を現世(うつしよ)と云う。か 空蝉(うつせみ) この世に生きている人間。古語の「現人(うつしおみ)」が訛ったもの。転じて、生きている人間の世界、現世。うつそみ。 源氏物語五十四帖の第三帖の題名。さだまさしのアルバム「夢供養」(1979)に収録されている曲名でもある。か 刺し違えるか
覚悟の自刃(じじん) 迫るのか

 赤く燃える山に煌(きらめ)くは あまりに あまりな 椛
 誇らし気に 彼女は続けた

「あれは 血に染まった あたしたちの掌。
 今更 逃げられない 運命、いや 使命ね。」

躰に刻む 罪と罰と 向かう道先
あまりに あまりに あまりに あまりに 赤く